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寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。(2/3)

前提:寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。-1

顔も覚えてないようなクラスメイトの手紙を開く。
その瞬間まで俺は完全に忘れてたんだが、
手紙には、最後に、こういう欄があったんだよ。
「一番のお友達は誰ですか」っていう欄がさ。


夜中になると、俺は電車で小学校に向かった。
スコップを納屋から拝借してくると、
俺は体育館の裏に行って、穴を掘りはじめた。

すぐに見つかるもんだと思ってたんだけど、
案外埋めた場所って覚えてないもんでさ。

ミヤギは、穴を掘り続ける俺を、
近くに座ってぼうっと眺めてた。
なんとも奇妙な光景だっただろうな。


結局タイムカプセルが見つかったのは、
穴を掘りはじめてから三時間後くらいで、
その頃にはスコップを握る両手はマメだらけ、
身体は汗まみれ、靴は泥だらけだった。

街灯の下に行って、俺はタイムカプセルを開けた。
自分の手紙だけ取りだそうと思ってたんだが、
ここまで苦労したんだし、いっそのこと、
全部に目を通しちまおうって俺は考えた。

顔も覚えてないようなクラスメイトの手紙を開く。
その瞬間まで俺は完全に忘れてたんだが、
手紙には、最後に、こういう欄があったんだよ。
「一番のお友達は誰ですか」っていう欄がさ。


これまでの流れからいって予想はつくけど、
そこに俺の名前を書いてる奴は、一人もいなかった。

なるほどね、と俺は妙に納得してしまった。
一番輝いて見えた小学時代さえ、この有様だ。

ただ、ひとつだけ救いはあった。
例の幼馴染だけどさ、あの子だけは、
「一番のお友達」にこそ指名しなかったけど、
手紙の文中で俺の名前を出してくれてたんだ。
いや、これを救いと捉えるのも相当むなしい話だが。

自分の手紙と幼馴染の手紙だけ抜きとると、
俺はタイムカプセルを元あった場所に埋め直した。

去り際、ミヤギがタイムカプセルを埋めた場所の上に立って、
地面を足でとんとんと均していたことを覚えてる。


終電は数時間前に駅を通過していた。
俺は駅の硬い椅子に寝そべって始発を待った。
異様に明るいし虫も多くて、寝るには最悪の環境だったな。

一方、ミヤギは全然平気そうでさ。
スケッチブックを取りだして、構内の様子を描いていた。
仕事の一環かな、と考えながら俺は眠りについた。

始発の数時間前に目を覚ました俺は、
外に出て自販機でアイスコーヒーを買った。
変な場所で寝たせいで、体中があちこち痛んだ。

まだ辺りは薄暗かった。
構内に戻ると、ミヤギが伸びをしていた。
なんか、人間らしい一面をようやく見た気がしたな。
ああ、この子も伸びとかするんだ、って感心した。


感心ついでに、俺の中に、妙な感情が芽生えた。

余命三ヶ月っていう状況のせいかもしれない。
たび重なる失望のせいかもしれないし、
連続した緊張、疲労や痛みのせいかもしれない。

起きたばかりで寝ぼけてたのかもしれないし、
単にミヤギという子が好みだったからかもしれない。

まあ何でもいい。とにかくその時、不意に俺は、
ミヤギに「酷いこと」をしてやりたくなったんだ。
自暴自棄の手本って感じだよな。どうしようもない。


ミヤギに詰め寄って、俺は聞いた。「なあ監視員さん」

「なんでしょうか」とミヤギは顔をあげた。

「たとえば今ここで、俺があんたに乱暴なんかしたら、
本部とやらが俺を殺すまで、どれくらいかかる?」

彼女は特に驚かなかった。さめた目で俺を見て、
「一時間もかからないでしょうね」とだけ答えた。

「じゃあ、数十分は自由にできるってわけか?」

そう俺が聞くと、彼女は俺から目を逸らして、
「誰もそんなこと言ってませんよ」と言った。

しばらく沈黙が続いた。

不思議なことに、ミヤギは逃げ出そうとはしなかった。
ただじーっと、自分を膝を見つめてた。


「……危険な仕事なんだな」
そう言って、俺はミヤギの二つ隣に座った。

彼女は俺から目を逸らしたまま、
「ご理解いただけたようで何よりです」と言った。

俺の神経の昂りはすっかり収まっていた。
ミヤギの諦めきったような目を見ていたら、
こっちまで悲しくなってきたんだよ。

「俺みたいなやつ、少なくないんだろう?
死を前にして頭をおかしくしちまって、
監視員に怒りの矛先を向けるようなやつ」

ミヤギは首をゆっくり振った。
「あなたは、どちらかと言えば楽なケースですよ。
もっと極端な行動に出る人、たくさんいましたから」


「……何で、そんな危ない仕事を、
あんたみたいな若い子がやってるんだ?」

俺がそう聞くと、ミヤギはぽつぽつと話し始めた。

話によると、彼女には借金があるらしかった。
原因は彼女の母親にあるのだという。

なんでも、たいした人生でもないくせに、
借金までして寿命を買いあさったらしい。
それなのに病気であっさり死んでしまって、
そのツケをこの子が払うことになったんだとか。
清々しいくらい胸糞悪い話だったな。


「借金ですが、私の寿命を全部売って、
ようやく返しきれるかどうかって額なんです。
あとちょっとで勝手に寿命を売られるところだったんですが、
諦めかけた時、この監視員の仕事を紹介されたんですよ。

この仕事、大変ですが、稼ぎはすごくいいんです。
このまま続けていれば、私が五十歳になる頃には、
全額返しきれてるんじゃないかと思います」

”五十歳になる頃には”、か。
これもまた、げんなりさせられる話だった。

彼女はまるでそれを救いのように話してたが、
自分が何かしたわけでもないのに、あと数十年、
俺みたいなやつの相手をし続けなきゃいけないわけだろ?


「そんな人生、全部売っちまえばいいじゃねえか。
五十まで生き残れる保証なんてないんだろ?」
俺がそう言うと、彼女は少し困ったような顔をした。

「たしかに、実際、監視員の仕事をしてる中で
監視対象に殺されてる人も、たくさんいますね。
でも……ほら、簡単には割り切れませんよ。
いつかいいことあるかもしれないじゃないですか」

「そう言ってて、五十年間何一つ得られないまま
死んでいった男のことを、俺は一人知ってるぜ」

「それ、私も知ってます」とミヤギはちょっとだけ微笑んだ。
なんだか嬉しかったな。俺の冗談で彼女が笑ってくれたことが。


始発電車に乗り、スーツや制服に囲まれた中、
俺は周りの目も気にせずミヤギに話しかけた。

「タイムカプセルの中でさ、『一番のお友達』に
俺を選んでくれてる人はいなかったけど、
それでもやっぱり幼馴染のあの子だけは、
俺の名前を手紙の中で出してくれてたんだよ」

もちろん、周りにはミヤギの姿が見えていないから、
ひとりごとを言っているように見える。完全に不審者だ。

ミヤギは心配そうな顔で言う。
「あの、皆見てますよ。変な人だと思われてますよ」

「いいよ。思わせとけよ。実際、変な人なんだから。
……それでさ、あらためて駅で考えたんだけど、
やっぱり俺にとっては、たとえどんなに変わり果てようと、
幼馴染のあの子は、俺の人生そのものなんだよ」


「それで、どうしようっていうんですか?」

「最後に一度だけ、彼女に会って話がしたい。
そしてさ、俺に人生を与えてくれた恩返しに、
俺の寿命を売って得た三十万を、彼女に渡したいんだ。
多分あんたは反対するだろうけど、別にいいだろ、
俺の寿命を売って稼いだ俺の金なんだから」

「……そこまで言うなら、別に反対しませんよ。
でも電車内で話すのは、もうやめましょう。
見てるこっちが恥ずかしいですよ」
とは言いつつも、ミヤギは妙に楽しそうだった。

家には帰らず、俺はそのまま街へ向かった。
トーストとゆで卵をコーヒーで胃に流し込むと、
俺は深呼吸して、幼馴染に電話をかけた。


夜だったら会える、と幼馴染は言ってくれた。
好都合だった。こちらも色々と準備があるからな。

俺はミヤギの手を取って、ぶんぶん振りながら歩いた。
道行く人には一人でそうやってるように見えただろうけど、
俺は気分がハイになってたから、どうでもよかった。
ミヤギは困ったような顔で俺に引っ張られるままにしてたな。

まず美容室へ向かい、二時間後に予約を入れた俺は、
ショップに行って服と靴を買い、その場で着替えた。
新品の服を買うのなんて数年ぶりだった。

新しい服に着替えて髪を切った俺の姿は、
なんだか俺じゃない誰かみたいだった。

ミヤギもまったく同じ感想をくれた。
「なんか、まるで別の人みたいですね」
正直言って嬉しかったな。俺、悪くないじゃん!


待ち合わせまで暇だったから、俺はミヤギに頼んで、
幼馴染と会ったときの予行演習をすることにした。

昨日友人と会った時のレストランに入り、訓練を始める。
正面に座ったミヤギに向かって俺は微笑み、
「どうだミヤギ、感じ良く見えるか?」と聞く。
周りから見れば、壁に向かって微笑みかける変人だ。

ミヤギはサンドイッチをもそもそ食べながら答える。
「んー、ちょっと笑顔がこわばってますね。
普段笑わないから、表情筋が弱ってるんですよ」

「そうか。なら、夜までに鍛え上げてみせるさ」
俺は何度も笑ったり真顔になったりを繰り返す。

「……あなた、なんていうか、おもしろいですね」

「ああ。魅力的だろ? 惚れないように気をつけろよ?」

「気を付けます。しかし、浮き沈みの激しい人ですね」

実際、かなり浮かれてたんだよ、その時は。


電話してから幼馴染に会うまで
大体八時間くらい間があったんけど、
俺には二十七時間くらいに感じられたね。
五秒に一回くらい腕時計を見てた気がする。

ぎりぎりまで俺は、ミヤギで訓練してた。
どうすりゃ相手に良い印象を与えられるか、
カフェのすみで、二人で試行錯誤してたな。

――そうして、ついに待ち合わせの時間が来た。
待ち合わせ場所にやってきてくれた幼馴染を見て、
俺はその外見や口調の変化にとまどいつつも、
笑い方や仕草が変わっていないのに気づいて、
それだけで、本当に電話してよかったと思った。

「ひさしぶり」と彼女は言った。「元気にしてた?」
「元気にしてたよ、そっちは?」と俺は答えたが、
余命三か月の俺が元気だって言うのも笑えるよな。


外見にそれなりに金をかけたおかげか、
幼馴染は俺のことを気に入ってくれたみたいだった。
「ずいぶん変わったね」と言いながらべたべたしてくる。

なんていうかさ、いける感じの雰囲気だったんだよ。
訓練の成果と、未来を知ってるがゆえの余裕もあって、
俺はかなりの好印象を幼馴染に与えることに成功してた。

しかし俺ってやつはさ、本当に物事を
台無しにしないと気が済まないらしいんだよな。

近況を語りたがる幼馴染の話をさえぎって、
何と俺は、寿命を売った件について話し始めたんだよ。
「あのさ、俺、余命三か月しかないんだよ」って
同情を引くような調子で語りはじめたんだ。


心のどこかで俺は、この幼馴染なら、
俺の話を真面目に聞いてくれる、俺に深く同情し、
慰めてくれるって信じてたんだろうな。

でも話が始まって五分とたたずに、
幼馴染は退屈そうな反応を示し出した。
馬鹿にしたような顔で、「ふーん?」とか言うのな。

もちろん間違ってるのは俺で、悪いのは俺なんだ。
俺だって突然、寿命を買い取る店がどうだの
監視員がこうだの言われても、信じないだろう。
大笑いされなかっただけマシだと思う。

幼馴染は「ちょっと失礼」と言って立ち上がった。
トイレにでも行くんだろう、と俺は思ってた。
その直後に、注文した料理が二人分届いた。
俺は早く続きを話したくて仕方なかったな。

でも幼馴染は戻ってこなかった。
料理が冷めるまで待ったけど、戻ってこなかった。
また俺は”やっちまった”わけだ。


俺は冷めたパスタをゆっくり食べた。
しばらくすると、ミヤギが正面に座って、
幼馴染の分のパスタをぱくぱく食べ始めた。
「冷めてもおいしいですね」とミヤギは言った。
俺は何も言わなかった。

店を出ると、俺は駅前の橋に向かった。
そしてそこで、幼馴染に渡すはずだった
三十万円の入った封筒を胸から取り出し、
道行く人に、一枚ずつ配って歩いた。

「やめましょうよ、こんなこと」とミヤギが言う。
「別に人に迷惑はかけてないだろ」と俺は返す。

どいつもこいつも、渡されたのが金だと分かると、
薄っぺらい礼を言うか、怪訝そうな顔をした。
断る奴もたくさんいたし、もっとよこせと言う奴もいた。


三十万はあっという間になくなった。
俺は勢い余って、財布の金にまで手を出した。

きっと俺は、誰かに構って欲しかったんだろうな。
「何かあったんですか?」とか聞いて欲しかったんだろう。

三十三万円配り終えると、俺は道の真ん中で立ち尽くした。
道行く人が不快そうに俺のことを眺めていた。

タクシー代も残っていなかったので、
俺は建物の陰になっているベンチで寝た。
真上に傾いた街灯があって、しょっちゅう点滅していた。
ミヤギも正面のベンチで寝るようだった。
女の子にひどいことさせんてなあ。

「先に帰っていいんだぞ?」
俺がミヤギにそう言うと、彼女は首をふった。
「そしたらあなた、自殺とかしそうですから」


眠りにつくまで、俺は真上に広がる星空を眺めていた。

最近、夜空を見る機会が増えた。七月の月は、綺麗だ。
俺が見逃していただけで、五月も六月もそうだったのかもしれない。

俺はいつものように、眠りにつく前の習慣を始めた。
頭の中に、いちばんいい景色を思い浮かべる。
俺が本来住みたかった世界について、一から考える。

五歳くらいから、ずっとやってる習慣だった。
ひょっとしたら、この少女的な習慣が原因で、
俺はこの世界に馴染めなくなったのかもな。


六時ごろに目を覚まして、俺は歩いてアパートまで帰った。
街の外れでは朝市をやっていて、早朝から騒がしかった。

四時間くらい歩いて、ようやくアパートについた。
一昨日の件もあって、両腕両足が悲鳴を上げてたな。
もっと安らかに生きることはできないのかね、俺は。

シャワーを浴びて着替えると、寝なおした。
ベッドだけは俺を裏切らない。俺はベッドが大好きだ。

さすがのミヤギもそれなりに疲れたらしく、
監視もほどほどに、すぐシャワーを浴びて、
部屋のすみっこでうつらうつらしていた。


机の上には、書きかけの遺書があった。
だが、続きを書くのは何だか馬鹿らしかった。
誰も俺の言葉なんて気にしちゃいないんだ。

会いたい人もいないし、そうなると、
いよいよすることがなくなってしまった。
散財しようにも金は昨日配りきってしまったし。

「何か他に好きなことはないんですか?」
ミヤギは俺にを励ますように、そう訊ねた。
「やりたかったけど、我慢してたこととか」

そこで割と真剣に考えてみたんだけど、
俺、どうやら好きなことがあんまりないらしい。
あれ、今まで何を楽しみに生きたんだっけ?


かつて趣味だった読書も音楽鑑賞も、
あくまで「生きていくため」のものだったんだよな。
人生に折り合いをつけるために音楽や本を用いてたんだ。

いざ余命三か月となると、何もしたいことがなかった。
薄々感づいてはいたけど、俺って生き甲斐がないんだ。
寝る前の空想だけを楽しみに生きてたとこがあるな。

監視員は言う、「別に無意味なことだっていいんですよ。
私が担当した人の中には、余命二か月すべてを、
走行中の軽トラックの荷台に寝そべって
空を見上げることに費やした人もいるんです」

「のどかだな、そりゃ」と俺は笑った。


さらにミヤギは、こう言った。
「考える時は、外に出て歩くのが一番です。
お気に入りの服に着替えて、外に出ましょう」

いいこと言うじゃないか、と俺は思った。
段々とこの子は、俺に優しくなってきているように見える。

もしかすると、監視員は監視対象との接し方が決まっていて、
彼女はそれに従っているだけなのかもしれないが。

俺はミヤギのアドバイスに従って外を歩いた。
ものすごい日差しが強い日だったな。髪が焦げそうだった。
すぐに喉が渇いてきて、俺は自販機でコーラを買った。

「あ」、と俺は小さく声を漏らした。


「どうしました?」

「……いや、実にくだらない事なんだけどさ。
好きなもの、一つだけあったことを思いだした」

「言ってみてください」

「俺、自動販売機が大好きなんだよ」

「はあ。……どこら辺が好きなんですか?」

「なんだろな。具体的には自分でも分からないんだが、
子供の頃、俺は自動販売機になりたかったんだ」

きょとんとした顔でミヤギは俺の顔を見つめる。


「あの、確認ですけど、自動販売機って、
コーヒーとかコーラとか売ってるあれですよね?」

「ああ。それ以外も。焼きおにぎり、たこ焼き、
アイスクリーム、ハンバーガー、アメリカンドッグ、
フライドポテト、コンビーフサンド、カップヌードル……
自販機は実に様々なものを提供してくれる。
日本は自販機大国なんだよ。発祥も日本なんだ」

「んーと……個性的な趣味ですね」
なんとかミヤギはフォローを入れてくれる。

実際、くだらない趣味だ。見方によっては、
鉄道マニアを更に地味にしたような趣味。
くだらねー人生の象徴だよなあ、と自分で思う。


「でも、なんとなく分かる気はします」

「自販機になりたい気持ちが?」

「いえ、さすがにそこまでは理解不能ですけど。
自販機って、いつでもそこにいてくれますから。
金さえ払えば、いつでも温かいものくれますし。
割り切った関係とか、不変性とか、永遠性とか、
なんかそういうものを感じさせてくれますよね」

俺はちょっと感動さえしてしまった。
「すげえな。俺の言いたいことを端的に表してるよ」

「どうも」と彼女は嬉しくもなさそうに言った。


そういうわけで、俺の自販機巡りの日々が始まった。

原付に乗って、田舎道をとことこ走る。
自販機を見かけるたびに何か買って、
ついでに安物の銀塩カメラで撮影する。
別に現像する気はないんだけど、何となくな。

そんな無益な行為を数日間繰り返した。
こんなくだらない趣味一つをとっても、
俺よりもっと本格的にやっている人が沢山いて、
その人たちには敵わないってことも知っている。

でも俺は一向に構わなかった。なんか生きてる感じがした。

俺のカブ110は幸いタンデム仕様だったので、
ミヤギを後ろに乗せて、色んなところをまわれた。
ようやくやりたいことが見つかって、天気にも恵まれて、
俺の生活は一気にのどかなものに変わった。


原っぱに腰を下ろして、俺は煙草を吸っていた。
隣では、ミヤギがスケッチブックに絵を描いていた。

「仕事しなくていいのか?」と声をかけると、
ミヤギは手を止めて俺の方を向いて、
「今のあなた、悪いことしなさそうですから」と言った。

「そうかねえ」と言うと、俺はミヤギのそばに行き、
彼女が線で画用紙を埋めていく様を眺めた。
なるほど、絵ってそうやって描くのか、と俺は感心していた。

「でも、そんなに上手くないな」と俺がからかうと、
「だから練習するんです」とミヤギは得意気に言った。

「今まで書いた奴、見せてくれ」と頼むと、
彼女はスケッチブックを閉じて鞄に入れ、
「さあ、そろそろ次に行きましょう」と俺を急かした。


ある日、俺が目を覚まして部屋のすみを見ると、
そこにいつもの子の姿はなくて、代わりに、
見知らぬ男がかったるそうに座っていた。

「……いつもの子は?」と俺はたずねた。

「休日だよ」と男は答えた。「今日は、俺が代理だ」

そうか、監視員にも休日とかあるんだな。
「へえ」と俺は言い、あらためて男の姿を眺めた。
露天商とかにいそうな感じの、うさんくさい男だった。
すげえ遠慮のない感じで存在感を撒き散らしてたな。


「お前の寿命、最安値だったらしいな?」
男は露骨に俺をからかうような調子で言う。
「すげえすげえ。そんなやついるんだな」

「すげえだろ? なり方を教えてやろうか?」
俺が淡々と返すと、男はちょっと驚いたような顔をした。

「……へえ、お前、結構余裕あるみたいだな?」

「いや、しっかり今ので傷ついてる。強がりさ」

男は俺の発言が気に入ったらしく、
「お前みたいな奴、嫌いじゃないよ」と笑った。


監視員が男になったことによって、
俺はかなりリラックスできるようになった。

男はそんな俺の様子を見て、言う。
「女の子が傍にいると落ち着かねえだろ?
なんかキリっとしたくなるよな。分かるぜ」

「そうだな。あんたの傍は落ち着くよ。
あんたになら、どう思われようと構わないから」

俺は『ピーナッツ』を読みながらそう答えた。
ミヤギの前では恥ずかしくて読む気になれなかった本。
そう、実を言うと、俺はスヌーピーが大好きなんだ。

「そうだろうな。……ああそうだ、ところでお前、
結局、寿命を売った金は何に使ったんだ?」
そう言うと、男は一人でくっくっと笑った。


「一枚ずつ配って歩いた」と俺は答えた。

「一枚ずつ?」と男はいぶかしげに言った。

「ああ。一万円を三十枚、三十人に一枚ずつ。
本当は人にあげるつもりだったが、考えが変わった」

すると男はタガが外れたように笑い出したんだ。

それから、俺にこんな質問をしてきたんだよ。


「なあ、お前――まさか、本当に自分の寿命が
三十万だって言われて信じちゃったのか?」

「どういうことだ?」と俺は男に聞いた。

「どういうも何も、言葉そのままの意味だ。
本当に自分の寿命、三十万だと思ったのか?」

「そりゃ……最初は、安すぎると思ったが」

男は床を叩いて笑う。俺は不愉快になってきた。

「そうかそうか。俺からはちょっと何も言えないが、
まあ、今度あの子に会ったら、直接聞いてみな。
『俺の寿命、本当に三十万だったのか?』ってな」

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プロフィール

おばけ

Author:おばけ
実話とか創作とか関係なく読み物として面白い怪談が好きです。
当ブログは気に入った怪談を集め好きな怪談の話になった時等に紹介したり、久しぶりに見たくなったけどタイトル覚えてないだとか、紹介される際どんな話をすでに知っているかを伝える等々用。
その辺のまとめサイトやブログなどから引っ張ってくるものばかりです。

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